透明感のあるタイル
下町の風情が残る住宅街の一角に、その医院はあった。車一台通るのがやっとの道。隣接する駐車場に看板があるきりで、道を見渡すだけでは見つからない。が、歩いていくと、夕闇にぼーっと明るい壁面、グリーンを帯びた光のラインが実に印象的に目に映る。方形にくりぬかれたエントランスからはやわらかな光に包まれた内部を覗き見ることができるが、ドアのガラスに刷り込まれたサインに目を止めないと、何の施設なのか、おそらく気づかずに過ぎるのではないだろうか。
ほとんどセットバックなしに細い道路に平行して7メートル、高さ5メートルの壁が立つ。周辺は民家や個人商店しかなく普通なら圧迫感を与えるものだが、やさしい情感さえ誘うのは、目線に沿って壁を切り取り、漏れでる光のラインが温かい内部を感じさせるからだろう。内から光を受けてやわらかな光芒を発しているようなタイルの表情もやさしさを醸している。壁のラインは、厚さ10mmのガラスを積層し、小口を表に見せるようにしたもの。内部の景色はガラスの小口によって細分され、見えるようで定かには見えない、透明なのに不透明という不思議な感覚をもたらす。そして、ガラスの小口が見せる淡いグリ−ンの色味と、さわやかなタイルのホワイト。奥行きのある積層ガラスの方に重量感をもたせることで、逆にタイルに透明感を与えている。シンプルなデザイン、素材、色……すべてが絶妙なバランスを保ち、ひとつのミニマルアートを観るような趣さえある。
清潔感と安心感の追求
設計・デザインを担当した中尾さんと吉田さんが勤めるタカラスペースデザインは、理美容院の設計・施工で有名な会社。リーダーの中尾さんはデンタルの実績も豊富だが、今回、そのセンスが見込まれデザインを任された吉田さんには初めての経験。理美容ではいかに目立たせるか、外を行き交う人に華やかに内部を見せるかが要求されるが、医院は全く勝手が違う。求められるのは、店舗とも住宅とも異なり、清潔で安心感を与えるファサード。しかも道路が狭く、通る人は建物に正対することなく横を過ぎる。そこから、あえて平面だけで勝負することを考え、平面だけど存在感がある、不透明なのに清潔な透明感がある、そんなファサードをめざした。
「小口を見せてガラスを表現したい」――普通、ガラスは無色透明と考えがちだが、ガラスは緑、小口こそ美しいと考える吉田さんのこの一言で、デザインの方向性は決まったとも言える。とはいえ、ガラス小口を生かす素材選択に悩んでいた吉田さんに、今回のタイルの使用を薦めたのが中尾さん。めざすデザインの方向性にこのタイルがぴたりとはまった。些細なことのようだが、リブ(波)加工品の選択は、小口表現にマッチするだけでなく、タイル面のやわらかな印象に寄与している。
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| 兵庫県神戸市生まれ。大阪芸術大学卒業後、タカラスペースデザイン(株)勤務。理美容の店舗設計を多数手がけ、近年は歯科医院の設計を主とし、住宅を併設した医院建築も手がける。 |
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| 2001年京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科卒業。同年タカラスペースデザイン(株)入社。 |
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| 内から光を受けた光芒を発しているようなタイルの表情。 |
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| 厚さ10mmのガラスを積層した壁のライン。 |
| 【平面図】 |
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| ■用途 |
歯科医院 |
| ■構造規模 |
RC造3階建て |
| ■敷地面積 |
218.54m2 |
| ■建築面積 |
130.14m2 |
| ■延床面積 |
320.88m2 |
| ■使用タイル |
300角リブ付施釉タイル |
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